「速く走る」か「距離を縮める」か ― 開発生産性を上げる2つのアプローチ
あけましておめでとうございます。 昨年は生成AIに振り回された一年でした。働き方そのものを問い直さざるを得ない一年で、「AI疲れ」なんて言葉まで生まれましたね。
私はソフトウェア設計が好きで、ずっと探求してきました。優れた設計とは何か。突き詰めると、「やりたいことを実現するのに、書き換えるコードが少なくて済む」設計のことだと思っています。人間のコーディング速度には限界がある。だから、変更量の少ない設計こそが効率の鍵になる――そう信じてやってきました。
ところが、コーディングエージェントの登場で雲行きが変わってきました。これまでは「どうやって作業量を減らすか」と知恵を絞っていたのに、気づけば「全部エージェントにやらせればええやん」というパワー系の発想に傾いている。AIは超高速でコードを書く。だったら、変更量を減らす工夫なんてせずに、あらゆる場所をAIに力任せで書かせればいい――そんな選択肢が現実になってきたんです。
そんな潮目なので、開発生産性を上げるアプローチを、自分の頭の整理がてら一度まとめておくことにしました。
2つのアプローチ
開発生産性を上げる道は、大きく2つあると思っています。短距離走に例えてみましょう。
1つ目は高速化。100mを15秒で走っていた人が、12秒、10秒で走れるようになる。同じ作業をとにかく速くこなす方向です。ITによる自動化までいけば、「いっそ1秒で走ってやろう」という野心的な試みとも言えます。自動テスト、自動デプロイ、最近ならコーディングエージェントによる自動コーディングもここ。自動化は、いわば乗り物に乗る感覚です。電車、飛行機、なんなら戦闘機。生身では出せない速度が手に入る。
2つ目は作業量の削減。100m走るはずだったのを、1mで済むようにする。やるべき作業そのものを減らす方向です。優れたアーキテクチャで変更箇所を絞る、業務プロセスを見直して無駄な工程を消す。こうした打ち手がこれにあたります。ポイントは、乗り物に頼らず、人間だけで達成できること。
どちらも生産性は上がる。けれど、向いている方向はまるで逆です。
従来の棲み分け
この2つ、これまではきれいに棲み分けがありました。
ルール化できる領域は、高速化の独壇場。自動テストや自動デプロイ(CI/CD)がそうです。手順をルールに落とし込めるから、ITで自動化して一気に爆速にできる。
一方、ルール化できない領域は人間がやるしかなかった。コーディングやコードレビューがそうです。ここは速くするにも限界がある。人間だから。だから生産性を上げたければ、作業量を減らす方向で勝負するしかなかった。
良いアーキテクチャで変更箇所を減らす。そもそも作る機能を絞る。人間がボトルネックになる以上、人間の手数そのものを削る――それが王道でした。
生成AIで広がった選択肢
ところが、生成AIの登場で、この棲み分けが崩れ始めました。
コーディングやコードレビューといった、ルール化できず人間にしかできなかった領域。そこを生成AIが肩代わりし始めた。つまり、これまで「作業量を減らす」一択だった領域でも、「高速化」が選べるようになったんです。減らす努力をしなくても、AIに任せて速くすればいい。そんな世界が近づいています。
じゃあこの変化で、ワークフローや働き方はどう変わるのか。人間の役割はどこへ向かうのか。そのあたりは、また別のタイミングで書いてみようと思います。
まとめ
というわけで、開発生産性を上げるアプローチには「高速化」と「作業量削減」の2種類がある、という話でした。
これまでは、ルール化できない領域は人間がやるしかなく、作業量を減らすしか手がなかった。でも生成AIの登場で、そんな領域すら高速化で殴れるようになってきた。
「作業量を減らす」を選ばなくて済むケースが増えれば、業務効率化で何に手をつけるべきかも変わってきます。昨年登場したAI-DLCやAI-BPOをちゃんと理解して、あらためて業務プロセスの見直しに本腰を入れる――そんな一年になりそうです。
余談ですが、ソフトウェア設計と業務プロセスの設計って、かなり似ていると思うんです。エンジニアとして磨いてきた「良い設計」の勘所は、そのまま業務プロセスの改善にも効いてくる。
昔、メルカリの方と話したとき、Zapierでワークフローを自動化しているという話を聞きました。最近ならn8nのような、GUIでポチポチ組めるワークフローツールも話題ですよね。ああいうツールを使いこなすのは、エンジニアの得意技。だから業務ワークフローの改善も、本来エンジニアの土俵なんだと思います。
いまはコーディングの自動化がとにかくホットで、それが当たり前になる未来も案外すぐかもしれない。コーディングで手が空いたエンジニアは、次は「コーディング以外の業務を丸ごとAIに任せるためのエンジニアリング」へ――そんなふうに軸足を移していくんじゃないかなと。
2025年の働き方は、想像していたものと全然違った。2026年も、きっと想像のつかない景色になるんでしょう。今年も対戦よろしくお願いします。